
▲M-V 7号機 打ち上げ (ジェネシア/国立天文台)
私たちの生活には欠くことのできない太陽。あまりに身近で日々穏やかに私たちを照らし出してくれているために、意外に太陽の大切さを忘れがちです。しかし、そんな穏やかな太陽では、私たちの気づかぬところで様々な活動が繰り返されています。その多くは謎に満ちていて、科学的解明が望まれています。
2006年9月、鹿児島県内之浦町にある内之浦宇宙空間観測所から、太陽観測衛星を載せたロケットが打ち上げられました。打ち上げに成功し地球を約50分で回る軌道にのせられたこの衛星は「ひので」と名付けられました。
これまでに日本の太陽研究者は、1980年代から2基の太陽観測衛星によって、太陽コロナで起こるさまざまな現象の発見と、それらの現象が太陽の磁場(磁石の力の働き)の変化によってもたらされることを発見してきました。現在活躍している「ひので」には、これまでの日本の太陽観測衛星やNASAの太陽観測衛星と比べて以下の特徴があります。
- 世界一太陽を細かく撮影できる望遠鏡で太陽の磁場の細かい様子や太陽表面の動きを見ることができます。
- さまざまな温度の太陽コロナの画像を細かく見ることができます。
- 太陽表面から異なる高さのガスの動き、温度、密度を調べることができ、太陽のガスがどのように活動しているのかを立体的に知ることができます。
「ひので」にはこのような観測を可能とするために3つの望遠鏡が搭載されています。
太陽を光で観測する望遠鏡は世界中にたくさんあります。しかし地上からの観測では、地球の空気の揺らぎによって太陽の像がかき乱され、太陽の細かな模様が見えなくなってしまいます。ひのでに載せられた太陽可視光望遠鏡(SOT)は、口径50センチの鏡を使った望遠鏡です。この大きさは決して大きいものではありませんが、2007年現在、光で観測する宇宙観測衛星の中ではハッブル宇宙望遠鏡に次ぐ大きさです。もちろん太陽を観測する衛星としては世界一の大きさで、空気の無い宇宙空間でその能力を最大限に発揮することができます。
SOTでは、カルシウムH線と呼ばれる紫色の光やGバンドと呼ばれる青色の光、Hα線と呼ばれる赤い光などで太陽表面やその少し上空のガスの様子と活動を詳細に知ることができます。また、光の偏光という性質を利用して、太陽表面の磁場の様子を見ることもできます。
太陽の活動は、太陽内部で発生する磁場によって起こっています。磁場の様子が詳しく観測されると、太陽の活動の原因をつきとめることができます。SOTは、太陽表面である光球の磁場の様子とその変化の様子が、光球の構造やその上空の彩層の構造とどうつながりを持っているのかを調べることのできる装置です。
SOT構造図
SOT光路図
参考: http://hinode.nao.ac.jp/sot/
太陽からは様々な電磁波が放射されています。その電磁波の1つ紫外線は、太陽の彩層上部からコロナまで太陽の外層大気の幅広い範囲から放出されています。太陽からの紫外線は、一部地上に届いて私たちの膚を日焼けさせますが、紫外線でも波長が短くエネルギーの高いものは、地球を覆うオゾン層や電離層に吸収されて地上に届かず、観測することができません。
ひのでは地球大気圏外にありますので、太陽からの電磁波全てを観測することができます。極端紫外線撮像分光装置(EIS)は、ひのでのSOTの側面に取り付けられた口径16センチの望遠鏡と分光器からなっており、地上には届かない波長17nm-30nmの極端紫外線のスペクトルを得ることができます。また、そのスペクトルから極端紫外線での太陽像を得ることもできます。太陽からの極端紫外線は、彩層やコロナで磁力線が混み合って温度や密度の高くなっている磁束密度の高いところから放射されます。黒点はその代表格で、黒点の上空では極端紫外線がたくさん放射されます。また磁場のエネルギーが放たれる現象の起こっているところでは、温度が上昇して極端紫外線が放射されます。太陽の光球は温度6000度で、極端紫外線を放射するほどエネルギーが高くありません。したがって、光球は極端紫外線を放射しないため黒い像となります。このようにEISでは、得られる温度や密度の情報から、太陽の彩層からコロナにかけての磁場の様子を知ることができます。
彩層とコロナの境界は、遷移層と呼ばれます。太陽は中心の核融合反応で生成した熱を放射や対流といった方法で外層へ伝えていきます。そうして表面の光球では6000度になり、彩層の温度最低層と呼ばれるところの4000度までは徐々に温度が下がりますが、そこから外層は温度変化が逆転し、外ほど温度が高くなるという不思議なことが起こっています。ひのでの大きな観測テーマは、この不思議な現象の解明にあります。遷移層は外層のコロナに向かって飛躍的に温度が上昇するところであり、ここを観測できるEISは、ひので観測テーマの重要なポジションをしめています。
参考: http://hinode.nao.ac.jp/eis/
太陽が放射する電磁波にはX線もあります。X線も極端紫外線と同様に地球の空気に遮られて地上からは観測できません。X線望遠鏡(XRT)は、EISと反対側となるSOTの側面に取り付けられています。斜入射という方法でX線を集め像を作る望遠鏡となっており、海外の他のX線望遠鏡よりも高いエネルギーのX線画像を得ることができます。また、解像度も世界最高となっており、まだ見つかっていないコロナの現象の発見に期待が持たれます。
X線は極端紫外線と同様に、磁束密度の高いところや磁場のエネルギーが放たれているところから放射されます。極端紫外線と違うところは、X線の方がエネルギーの高いところから放射されるということです。放射されるのはコロナからで、その温度は数百万度から1千万度に達します。3次元で太陽を探ることができる、これがひのでの特徴でしたが、最も上空高いところの観測を担うのがXRTです。
XRT光路図
参考: http://hinode.nao.ac.jp/xrt/
「ひので」は打上げ以降数回の軌道修正を経て、 10月4日までに太陽同期極軌道(高度約680km)投入を完了し、 初期運用を予定通り順調に行ってきました。姿勢制御系の最終チェックや観測機器立ち上げへの準備も行なわれ、可視光・磁場望遠鏡は10月14日にサイドドアを展開し、 不要の太陽光を排出する排熱窓を先に開けて、 光学系汚染防止ヒーターの運用により 望遠鏡内の放出ガスを排熱窓から排出するとともに、 観測装置の機能を確認完了した後、 望遠鏡開口部のドップドア展開にいたりました。
SOT、XRT、EISの3つの観測装置のドア開けオペレーションの先頭を切って、 可視光磁場望遠鏡(SOT)のトップドア開けが行われました。 SOTのトップドアは「ひので」衛星に搭載された可動部品の中でもっとも大きいものであり、 その動きは衛星全体を揺らしてしまいます。 またSOTのトップドアが開くと太陽光が衛星内部に入ってきます。 太陽観測衛星なのだから、 太陽の光を取り込むことは当たり前といえば当たり前のことですが、 軌道上の太陽望遠鏡で史上最大の口径を持つSOTでは、 これによっていままで経験 したことのない大量の熱が衛星内部に入ってくるので、 設計通りにどこも異常な高温にならないか(どうか)心配でもあります。 なによりSOLAR-B推進室の面々にとっては、 ドアが開くか開かないかは、 いままで10年以上にわたる努力が露と消えるかどうかの瀬戸際ですので、 オペレーション前の緊張感にはすさまじいものがあります。

右の2枚の写真は、 トップドア開けオペレーション直前の運用室の様子です。 右が、 衛星にコマンドを送ったり衛星全体の様子をチェックする部屋です。 左側に腕組みをして交信を待つ、 運用を取仕切る「上位ビット」と呼ばれる役目についている常田教授や、 画面右側でディスプレイを見つめ、衛星全体の状態を監視する、 システム担当三菱電機・島田プロジェクトマネージャーが 写っています。 左が、 SOTの状態や衛星の姿勢を見張っている部屋の様子です。 写真では、SOT望遠鏡部開発の光学設計主要部分を担った、 天文台・末松助教授や一本助教授が望遠鏡部の温度や 状況をモニター越しに監視をする準備をしている様子が見受けられます。 写真ではわからないかもしれませんが、 独特の緊張感がみなぎっています (正直、写真を撮るのが場違いな気がしてきて、 仕事とはいえ、とても気まずかったです)。 今回のオペレーションでは、 ドアが本当に開いたかどうかドアについているスイッチで確認するほかに、 SOTのフィルターグラフとコリレーショントラッカーのカメラで画像をとり、 明るい画像が取れたかどうかでも確認することにしました。 ただし、SOTの ピントが合っていない可能性が大きいので、 白いだけの写真が撮れても、 その光の量が予想の値と正しければドア開け成功という基準にしていました。
日本時間10月25日午後5時半、 衛星が鹿児島上空に表れ交信を開始。 SOT取得されたの画像は、 ドア開け前なのでまだ真っ暗のままです。 その後、トップドア開けのコマンドが地上から送信されました。 SOTからの画像が明るくなりました。 それだけではなく、 地上の望遠鏡では、年間数日、 それも瞬間的にしか取れないような鮮明な太陽表面の画像が現れました。 左の写真は、その画像をみんなで覗いている様子です。 実は、天文台・勝川上級研究員が、 軌道上での望遠鏡の変形などを計算し、 数日前にピントの微調整を行っていました。 最初からすばらしい画像が取れたのは、彼の手柄ですね。 しかし、すでに述べたとおり、画像が取れただけでは成功ではありません。 この後、数回の衛星との交信により、ドア開けが確認され、 衛星内部の温度も問題ないことが確認されました。
さて、いくつかの画像が撮れ、 それも最初から目の覚めるような鮮明な画像だったので、 運用チーム・望遠鏡を開発したメーカーの面々を交えて、 ちょっとした画像お披露目会が開かれました。 右の写真がその様子です。
研究者の性でしょうか、早速議論が始まっています。 著者も、画像のすばらしさに感動し、 これでこの研究もあの研究もできるぞとわくわくしながら見ていました。このDVDに紹介する映像や画像は、きっとみなさんにも同じ感動を持っていただけることでしょう。
下条圭美(ひのでチーム)